【レポート】山が燃える!?魚沼三大奇祭”百八灯(ひゃくはっとう)”体験レポート

立春も過ぎてはや1か月。暦の上では春ですがまだまだ雪に囲まれた豪雪地帯の魚沼市。そんな魚沼市で春の訪れを感じさせる、熱く燃える!?お祭りがあると聞いて参加してきました。

(この記事はだいたい8分で読めます)

 

山に火をともす!?

こんにちは、魚沼市観光協会の五十嵐です。昨年の春に入社して初のレポート記事となります。

初めての観光の仕事に右往左往しながらもなんとか1年が終わろうとしていた今年2月、他のイベントでお世話になっていた折立集落の星さんからこんなお誘いをいただきました。

「山に火をともす”百八灯”って祭りが3月5日にあるんだども(あるんだけど)、五十嵐さんも来てみねかい(来てみないかい?)」

山に火をともす?なんだ?京都の大文字の送り火みたいなやつか?とはてなマークを浮かべていると、

「ちごて(ちがうよ)、稜線にわらで火をつけるがんだて(つけるんですよ)」

とスマホで写真を見せてくれました。

ぬおお、これはすごい。本当に山の輪郭に沿って火が燃えている、こんなの見たことない!見てみたい!即答で「ぜひお邪魔したいです!」とお伝えし、参加させていただくことになりました。しかもせっかくだからと準備の段階からお手伝いさせていただけることに!これは貴重な体験になりそうだぞ。

”百八灯”とは

ここでこのお祭りについて少し説明しておきます。魚沼市旧湯之谷村にある折立(おりたて)地区は4つの温泉宿がある落ち着いた雰囲気の温泉地です。

この折立集落に江戸時代初期から続くと言う伝統ある行事で、農家にとっては大切な作神様の『稲荷大明神』に豊年満作を祈願する祭とのこと。村の人たちが歌を歌いながら、わらに火を灯して五穀豊穣・無病息災を祈るわけです。

百八灯ウェブサイト(新しいタブで開きます)

会場では地域の方によるそばやお酒のふるまいや、地域の青年会などによる出店などもあるようで、例年、温泉宿の宿泊客、魚沼市内や県外からのお客さんでにぎわっていたようです。

そんな伝統あるお祭りも近年はコロナ禍の影響で中止や規模を縮小しての実施…、となっていたのですが、今年実に3年ぶりに以前のような規模で実施!ということで地域の方たちの気合もマシマシなわけです。

そして当日。準備編

お誘いから時間は流れあっという間に3月5日を迎えました。事前の予報の通り天気もよさそう!集落の区長さんからお聞きした集合時間は13:00。はやる気持ちをおさえつつ現地に向かいます。

関越自動車道小出ICから湯之谷方面へ車を走らせ、国道352号線に入ったら15分程度で折立集落に到着です。お宿の看板が目印の折立温泉交差点を右に。

会場近辺では道案内などの準備が進められています。とってもよく目立つ”百八灯”の雪文字がお出迎え。集合場所に到着するとすでに村の皆さんが集まっていました。

魚沼市はご存じの通り日本有数のどころ。秋に収穫された魚沼産コシヒカリの”わら”を乾燥させ、保存しておいたものを地域の方が軽トラックで運びこみます。ちなみに魚沼に限らないようですが軽トラックが活躍する農村地域では軽トラックのことを”ケットラ”と呼ぶことが多いです。この日はケットラ3台分のわらが会場に運び込まれました。

このわらを集落の男衆が”背負子(しょいこ)”を使って山に運んでいくわけです。当然雪の上を歩くので、雪に沈まないよう”かんじき”も必須装備になります。私は持っていなかったので観光協会のものを借りていきましたが、雪国では普通にホームセンターでも売っています。

3束から4束のわらを背負子にくくりつけていきます。乾燥しているわらとはいえ、この量になると装備も含めると10㎏近くの重さになります。

私も村の方にお手伝いいただいてわらを背負わせてもらいます。皆さんより少ない2束だけなのになぜかドヤ顔です。

印象的だったのは、このわらを背負ったり準備をしている場面、皆さんとっても楽しそうだったんですよね。祭りへのわくわく感、地域の仲間と今年も一緒に準備ができるよろこび、みたいなものにあふれてとてもハッピーな空気です。

準備ができた人からいよいよ山へ。最初に説明したように百八灯は村を守る”お稲荷様”に祈りをささげる祭り。本物の祠は雪に埋まってしまっているので、雪で作ったかわいい祠にごあいさつして山に入っていきます。

稜線は村の方が歩きやすいように事前に道をつけてくれていますが、狭い箇所もあり、当然両サイドは崖。ちょっとドキドキしながら登ります。

歩く距離は5分程度でしょうか、あっという間の雪上ハイキング。尾根からは村の様子が一望できます。正直これだけで来た価値あり!最高!

尾根に到着したら、一定間隔につけてある印の箇所にわらを置いていきます。百八灯といいますが実際には40~50箇所くらいとのこと。ここで夜になったら火をともすわけですね、なるほど。

天気がよかったのももちろんですがこの非日常的な達成感はなかなか味わうことができません。達成感と崖から落ちないようドキドキする緊張感を胸に下山します。

「ふ~、気持ちよかったです!ありがとうございまし…」

「五十嵐さんなに言ってらんだてぇ(何を言ってるんだ)、もっぺん行かんばだて(行かないとですよ)」

今日集まった集落の人たちは約30人。わらを置くのは50箇所弱です。…。そうです、つまり2往復はしないと終わらないのです。

とはいえ感動のほうが大きかったので2回目は1回目より足取りも軽くご一緒できたように思います。みんなで2往復、時間にして1時間かからないくらいだったでしょうか、こうしてわらを運ぶ作業は終了しました。

「五十嵐さん、祭りは18:30頃から、点火は19:30だども19:00にはまたここに集まってくんねかい(あつまってくれませんか)」

「はい!それではまた夕方!」

と、興奮冷めやらぬままいったん自宅に戻ります。

いよいよ祭りスタート。火付け編

そわそわしながら自宅で過ごしていると気づけば夕方に。日中はでかけていた家族も誘っていよいよお祭りに出発です!

会場に近づくと徐々に車も多くなってきました。近隣のお宿や体育館の駐車場が利用できるようです。係りの方の指示に従って車をとめ、徒歩で会場を目指します。

私が車を停めさせてもらった駐車場からは歩いて3分くらいで会場の入り口に到着。昼間の雪文字もライトアップされ、会場まで続く遊歩道は雪壁をくりぬいて作られた灯篭が照らしてくれます。ここだけでも結構きれいで、写真を撮ってる人もいました。

ライトアップされた通路を抜けるとこれまた雪を利用したメインゲート?が現れました!受付では後ほど行われる抽選の券をもらいました。地域の方や旅館利用者だけでなく、来場者全員にいただけるというのもうれしい。何か当たるかな?とはしゃぐ娘。わくわく。

にぎわいを見せる場内では折立地域に伝わる伝統芸、”おりたて六人づき”も始まりました。その名の通り一つの臼に杵を持った男衆が6人、息の合ったチームワークでリズミカルにもちをついていきます。

つきたてのおもちは会場内でふるまわれます。早速私もいただき…たいところですが気づけばもう18:50。いけね、急いで火付けの集合場所に向かわねば。

お稲荷様の祠でお神酒をいただいて体を清め、昼間上った山に。今日は本当に天候に恵まれました。月明かりに照らされた稜線を、担当の場所まで歩きます。

足元に気を付けながら5分ほど歩き、昼間にわらを置いた担当の場所まで到着。お祭り会場の様子がよく見えます。谷合いの村のあかりが美しいです。建物の形なんかは変わってるでしょうが、同じような光景をきっと江戸時代の村人も見ていたんだろうな、と思いを馳せます。

持ち場についたらまずわらをセットします。昼間、1か所に3~4束ずつ運んだわらですが、そのうち1束をたき火を組むように立てます。これに火をつけて残りのわらは少しづつ追加していくようです。ご一緒した星さんのお話によると、だいたい15分から20分程度は火を持たせるとのこと。

あ、ちなみにこの星さんは私をお祭りにさそってくださった星さんとは別の方です。この方も星さん、準備の陣頭指揮をとっていたのも星さん、集落の区長さんも星さん。この集落は多くのおうちが星さん。なので集落の人は苗字ではなく昔からの”屋号”で呼び合います。(〇〇えもん、△△どん、など)

準備も終わり、いよいよ点火予定の19:30が近づいてきました!するとメイン会場からは『ひゃ~くはっと ひゃくはっと~』と優しい歌声が聞こえてきます。会場にいる人たちがみんなで歌う、山にささげる祈りの歌です。

「そろそろ合図の花火が1発上がるんなんが(上がるので)、そしたら点火してくんねかい」「はい…(ゴクリ)」

緊張しながら対面の山の方を見ていると、ほどなくしてヒュ~という音とともに一筋の煙が!合図の花火だ!花火が開くのを見るや、各場所で待機している皆さんが一斉にわらに点火。

よく乾燥したわらは点火するとすぐに大きな炎となりました。ここからは火から目を離せません。神聖な火が消えてしまうことのないよう、少しづつ、かつ火が弱くなりすぎないよう、わらを足していきます。あまり早く燃え尽きてしまってもいけないので、追加するペースは長年の経験が頼りです。

この間も下も会場からは『ひゃ~くはっと ひゃくはっと~』と聴こえてきます。祈りの歌が村全体を包み込み、タイムスリップしたような、異世界に来たような、とても幻想的な雰囲気です。

動画も撮ってみましたのでぜひご覧ください。百八灯の歌が聴こえますか?

ちなみに当然ですがこれだけの炎ですので近くにいるとかなり熱い!この夜の気温は2~3℃。待っている間はかなり寒かったですが、火をつけた途端に顔がジリジリと焼かれるようです。スキーウェアや帽子など、化繊でできているものは火の粉があたると穴だらけになってしまうとのこと。

わたしも星さんと一緒に無心でわらをつぎ足します。15分ほど経つとつぎ足せるわらがほとんどなくなりました。さすがベテランの皆さん、計算通り。周りを見回すと他の場所も同じようです。

「おつかれさ~ん、そろっとおりようて~(そろそろおりましょう~)」

誰かが声をかけると、最後まで火を見届ける数人を残し、みんな山から下りていきます。わらの灰は燃え尽きたらそのままにします。祈りの大役を終え、燃え尽きた灰は雪がとけたら山に還ります。そしてまたこの山からの水になって村を潤し、豊作をもたらしてくれることでしょう。

貴重な体験を終えた私もお祭り会場に再度合流!出店やステージイベントを楽しもうと思います。

謎のオヤジ集団ザ・サブローズの歌謡ショー。当地に伝わる伝説の人物”尾瀬三郎”をモチーフにした謎に包まれたボーカルグループ。(youtubeチャンネル)

六人づきも再度披露。今度こそおいしいおもちをいただきます!

その他にもあったかいお蕎麦に熱燗、甘酒から、フランクフルトや焼きそばといった子どもも大好きなフードまで、たくさんの屋台が出ています。無料のふるまい屋台もありますが心付けボックスも設置してありますので気持ちですが入れさせてもらいます。

祭りのフィナーレを彩るのは花火大会。山の麓から打ち上げられる花火にみんな歓声。たーまやー!

こうした花火は地元の方や関係団体からの”奉納”という形で打ち上げられます。孫の誕生を祝って、世界平和、亡くなった親族に感謝を込めて、などなど、花火に込められたエピソードが場内アナウンスで紹介されて打ち上げます。

こうして夢のような祭りの夜はあっという間に過ぎていきました。

決して派手なイベントではないかもしれませんが、江戸時代から脈々と続く地域の営みを感じられる素敵な祭りでした。

最初に熱く燃える祭り、と表現しましたが参加してみて感じたのは、春の雪解けのようにみんなをあったかくしてくれる、そんなほっこりするお祭りでした。

魚沼三大奇祭、折立の”百八灯”。自信を持っておススメしますのでぜひおいでください!

※ちなみに抽選会では家族全員何も当たりませんでした。またチャレンジします。

(文:観光協会五十嵐)

 

百八灯(百八灯)

・来年度の開催は未定ですが3月上旬予定

・お祭りの前後はぜひ折立温泉にお泊りください!(折立温泉の紹介

・メイン会場:おりたて振興組合前特設会場